RElocation

キャラクターメモ:ユージェ

レイと同じ支部に所属する性別不詳の非合法式士。
生家では一定の年齢まで身体的性別と逆の性の名前を使う慣習があった。その期間が終わる前に本当にどちらかわからなくなった。元の名はユージーン(男性)またはユージェニー(女性)。
猫を主とする動物の集合霊が精霊化したものと契約していて、野良猫と意思疎通して情報源にするほか、術具の種類によって違った『お願い』ができる。レイに貸した鍵はユージェの知り合いである証明で、協力してもらえるようになる手形のようなもの。
式士としては珍しく、どの家門や派閥にも属さず、〈土竜穴〉のような情報共有網も利用しない、全く孤立した状態。後ろ盾や互助が得られないため、それらの代わりとして警邏隊側にだいぶ有利な条件で飼われる立場に収まっている。式士の権益よりも社会的自由を選択しているので特に不満はない。
弟(ヴァイ ※幼名)がおり、自身は結婚するつもりがないので生家の後継は弟に譲っている。揃いのピアスと刺青をしている。close

メモなど 編集

ep3.レイとユージェ

「ねえ、見たよお」
 ユージェはいつでも誰にでも、甘えたような話し方をする。背後から声を掛けられても、一度でユージェだとわかるような。振り返ると当然ユージェがそこに立っている。今日は男物の制服を着ているので、言い換えるなら、”彼”が立っている。
「レイの仕事相手。すごいじゃん」
 と、笑う口元や添えられた指先は女のようだし、服装のせいか今日の立ち方は男のようだ。声はどちらにも聞こえ、体格はどちらにも見える。いつも通りの”彼”は、いつもと違う話をしているらしかった。
「それが?」
「知らないだろうけどさあ、あれ、王都のフェリス家の娘だよ。ステラ・フェリス」
「それは?」
「〈竜〉の中でも結構なおうちなの。家柄自体は中堅ってとこだけど、〈淀み〉にパイプがあるって噂。なんでこんなとこで雑用してるんだろ?」
 俺はわからないなりに真面目に聞いているつもりだったが、全くわからないので相槌も打たなかった。〈竜〉が式士ギルド所属の式士を指す言葉だとは知っている。それだけだ。
 ユージェは急に残念そうな顔をした。
「……なんかリアクションないの?」
「知らないだろうって、お前が言ったんだろう」
「そうだけどお」
 不満に寄せられた眉のピアスも、細められた目元の眼鏡も派手な色をしていて、いつ見ても地味な灰色の隊服からは浮いている。彼は気を取り直して俺を見上げた。
「ま、でも、魔術犯罪の捜査なんて、ほとんどあっちに投げたようなもんでしょ? レイは何やってるの?」
「丸投げしたのを怒られたから」
 ステラの、嫌みを言う笑顔を思い出す。自分の顔立ちの使い方を知っている人間の笑い方だ。捜査の真似事に役立つと思うが、俺にはできないので、彼女のようなのが仕事相手で良かった。
「……俺は聞き込みを」
「ええ、何の? 危なくない?」
「ステラの伝手で入った話だと、本を捌いてる奴が目星」
「あんまり伝わってこないんだけど……」
 数分前の俺と同じ気分を味わっているらしいユージェは、話しながらポケットを探った。硬貨か何か、小さなものがぶつかり合う音がしてから、彼は取り出した一つを無造作に差し出した。
「これ、貸してあげる」
 断る理由がないので受け取ったものの、受け取る理由も特にない。差し当たり、見たままのことを言う。
「鍵」
「うんうん。聞き込み中に猫に会ったら、それ見せて話しかけるといいよ」
「……ありがとう」
 ステラの素性の話に輪をかけて意味不明だったが、今度は俺にも返すべき言葉がわかっていた。ステラがギルド所属の正当な〈竜〉なら、ユージェは〈蛇〉だ。つまり無認可の式士である友人は、いつも俺に親切にしたがる。
「僕以外の友達ができるまで、僕が一番の友達でいてあげるからねえ」close

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ep2.ファロンとステラ

 建坪の狭い店内には、有象無象の物が詰め込んである。古書から美術品、武具、薬品、生物の一部に生花まで、壊れている物もいない物も、全てに何らかの使途がある。
 その全ての内容と配置が把握できるように整頓しているのに、唯一机の上だけは、素人が触った物が雑多に置かれていた。薄暗いことや人がいる為の空間がほぼないことは、特に問題ではない。ここで客の来るのを待つような商売でもない。
 が、たまには来客のある日もある。
 机の脇のスツールに掛けたまま、僕はこれから開かれるだろう扉を見て、その相手を待った。ノックでわかるのは来訪ではなく、来訪者が誰なのかだ。部屋全体に張られた境界線が、彼女の魔力に軽く揺れる。
「どうぞ、ステラ」
 呼び入れると、客は扉を開いた。
「こんにちは、イタル。相変わらず気持ち悪い特技があるのね」
 入った戸を閉めながら、彼女はいつも通り刺々しく言った。
 過剰と思えるほど肌を隠した衣装の胸元に、銀色の竜の徽章。見るからに双門同盟の式士だ。なまじ小柄で愛らしい容姿のせいで、その不似合いぶりにはいつも笑いそうになる。
「君くらいの式士なら、扉に触れる前から大体わかるよ。それと、僕の名前は"帷垂(イタル)”じゃありません」
「名前で呼んで欲しいの? 魔術士」
「僕は帷垂人ですが魔術士じゃありません。久しぶりですけど、何かご用ですか?」
 客に勧める椅子はないので、僕は座ったままだ。
 ステラの方もここで寛ぐ気はないだろう。戸口に立って、愛想笑いもなく彼女は言う。
「まあね。訊きたくないことがあるんだけど」
「どうぞ」
「あなたはこの街のイタルを全員把握してるの?」
「それは有償の情報です」
 僕は即答した。把握しているか否かで言えば、していないが、それ自体がただでは渡せない答えだ。
 ステラは大きな碧眼を険しくした。本人はそれが却って愛嬌に見えると気付いているのだろうか。
「……じゃあ質問を変える。あなたが知ってる範囲のイタルは、最近何か商売を?」
「式士ギルドが口を挟みたくなるような?」
「そうね」
「それは売れない情報かな」
「……やっぱり訊くんじゃなかったわ」
 うんざりした声音に舌打ちが混じっている。
 彼女は式士の中でもそれなりの家名に連なる、令嬢と呼んで差し支えない身分のはずだが、ここではいつもこんな態度だった。
『帷垂の魔術士』が双門同盟にとって、迂闊に(ちか)しくできない存在なのは公然の事実だ。尤も僕は魔術士ではないし、彼女が僕と絶縁できないのはわかっているので、その棘は何ら刺さらない。僕は笑みを返した。
「そうだね。お陰で僕に〈ギルド〉の動きがバレましたしね」
「どうせいつかはバレるでしょ」
「まあ、君が東区を散歩しているのは知ってました。いつウチに来るか、楽しみにしてたんですよ」
 種明かしをすれば、また舌打ちが聞こえる。
「ついでにあなたも調べて、何かわかったら教えてよ」
「検討します。来てくれたお礼に、一つ情報交換しようか」
 僕は机上に放り出されていた、一冊の本を手に取った。古ぼけたように見えるのは外見だけで、中の一部は新品だ。椅子を立ち、ステラに手渡す。
「近頃、東でも金回りのいい層がどこかから魔術書をよく買っているようで。僕も困ってるんですよね」
 無造作に表紙を開いた彼女が、中を改めるのを眺める。
「なにしろ、一部を贋物にすり替えられているので」
「……あなたが知らない範囲の誰かが、怪しげな商売してるってことね。微妙な情報ありがとう、ファロン」
 ステラは軽い音を立てて偽の魔術書を閉じ、僕の名を呼ばわりながら、ここへ来て初めて微笑んだ。その表情の使い方を知っている妙な女らしさが、外部出向に選ばれた一因なのかもしれない。
「術具商からお得意様への日頃の感謝の気持ちです。あなたに竜と焔の加護を祈ります、ステラ・フェリス」close

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ep1. ステラとレイ

 引き合わされた男は、愛想もなければ嫌悪もない、きれいな無表情だった。色素の薄い金髪に、切れ長でも険のない深緑の目、通った鼻筋や薄い唇は繊細で、かといって女性的ではない顎のライン、と、やたらと整った顔に乗るとなると、その無表情はむしろ最適に見える。
「警邏隊旧都支部第二支所保安課、レイ・バルフ。……よね?」
 男の名前を言うのは、当人ではなく私の方だ。思わず付け足した確認の言葉とともに、視線も相手の装備に向ける。地味な灰色の制服に短剣とランタンの徽章、間違いなく警邏隊員ではある。武装として長剣を差しているのは、ここ最近ではある程度限られた席に就く人間である証明だ。
 レイ・バルフ警邏隊員は、軽く頷いただけでにこりともしなかった。
「よろしく式士。なんて呼べばいい」
「ステラ」
 式士がフルネームを名乗らないのは、ままあることだ。だから驚きはないにせよ、レイはまた頷いただけで、話の主導権を持つつもりのない素振り。
「……初対面なのに失礼だと思うけど、あなたと組むのがもう不安になってきたわ」
 何しろこれは警邏隊から持ち出された仕事で、担当者は双門同盟からは私、警邏隊からは彼の一人ずつだ。装備は伊達ではないと思うが、このぼんくら――いや朴念仁――ではなくおっとりした男は、相棒としてどれほどあてになるんだろうか。
 ともかく、レイは変わらず涼しい顔をしている。
「だが俺の代わりはいない」
「そうね。余所から転属してきたばかりで、ギルド――じゃなくて、双門同盟絡みの面倒な仕事を押しつけられる正隊員は、あなたくらいなんでしょうね」
「そう」
 レイは気を損ねることもなく、私が自分の所属機関を俗称で呼んでしまったのも気に留めず、また頷く。再び脳裏にレイを評する雑言が過ったのを抑える間に沈黙が落ち、仕方がないので、私はまた話を続ける。
「市民昏睡事件は、先週末ので六件目」
「今朝で七件」
「……そうなの? 早く言ってよ」
「今会ったから、今言った」
「あんたが私にじゃなくて、警邏隊からギルドに早く言ってよ」
「その文句はギルドから隊に言ってくれ」
 クール気取りかと思ったのに、減らず口が返ってきたのは嬉しくもない想定外だ。
「……こっちが把握してる六件中、三件は霊的作用の痕跡を確認済み、一件は痕跡なし。他の二件は時間経過で追跡できないけど、それも恐らく」
 単なる酔っぱらい保護案件があっという間に魔術被害事件疑惑に発展して、警邏隊は式士ギルド、もとい、双門同盟にあっさり調査を丸投げした。丸投げの批判を躱す為に貸し出した人員はたった一人、しかもこのきれいなだけの掴めない男だ。
「まあ、下手に介入されるよりはね」
「何が?」
「何でもない。とりあえず段取りを決めないと」
 使えそうな伝手を胸中で辿りながら、目の前の男、つまり式や魔術の心得が全くない人間にわかる言葉を探す。
「昏睡させる手段は霊的な方法で、目的は不明。そうね?」
「そうだな。今朝のもそうだ」
「……それは、お宅の飼ってる〈蛇〉の見立てかしら。誰とは言わないけど」
 と、これには首肯が返された。レイの同僚には〈蛇〉、違法操業の式士がいたはずだ。私の本来の任務は大まかに言って、式の違法な運用の調査摘発ということになっているけれど、有用な〈蛇〉は黙認して利用する程度の”柔軟性”はある。
 黙認の建前として、〈蛇〉については私も頷き返すのみにした。
「じゃあまず手口だけど、式か魔術かは今のところ特定できない。仮に式士だったら、捕縛してシメるのは完全にこっちの仕事だから気にしないで。もし魔術士だったら、〈同盟〉も隊も関わらないのが得策」
「解決する気があるのか?」
 その言葉をそのままレイに投げ返してやりたいのを堪えて、出来る限りの可愛らしい笑顔を作る。
「だから、あなた達と同じようにすればいいのよ」
「同じ」
「専門家に丸投げするの。あてがなくもない」
 レイは頷く。もちろん嫌みは効いてもいない。
「で、俺は何を?」
「目的を探る。目的というか、犯人の人物像ね。地道に目撃情報でも集めて、向こうの手が読めるような情報を教えて。その点で言えば、式士より警官の方が民間人にも協力してもらえるでしょ」
「わかった」
 また頷く仕草がどうにも軽くて、長身のレイの目を見上げ私は念を押した。
「早く言ってね。もし尻尾を掴んでも、対応する前に私に報告するように。絶対によ。ただの人間じゃ式士や魔術士とは勝負にもならない」
「わかった」
 軽い。これは駄目かもしれない。とはいえ端からさしてあてにしてもいないし、警邏隊とは協力関係ではあっても、隊員の任務中の危険に私が負う責任もない。邪魔にならない限り、レイはほどほどに使えれば良しとする――ことにする。
 私はもう一度、自分の知る最高の角度の、最高に可愛い笑みでレイを見た。きれいなだけの、その顔を。
「それじゃ、よろしく。ハンサムさん」
「ああ。仕事相手がステラみたいので良かった」
「……みたいのって?」
 レイはここに至るまで淡泊な表情で、軽い口調で、言った。
「可愛い」
 不安を通り越して、もう苦手になってきた。close

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RE'
画像リンクがある範囲のキャラクターが、大なり小なり全員登場する話。主だった動きをするのはファロン(華士)、ユーナ、リコ、ジョン、ステラ。他はこの5人の協力者とか知人程度。
の、あらすじというか前提

旧都の街中で人が昏睡して発見される事案が散発。強盗などの被害はないが、昏睡した者に共通点や関係性、持病などもない。
警邏隊は隊内に出向中の双門同盟式士に、術の類ではないか念の為の調査を依頼。昏睡者の一部に若干の魔術的な痕跡が見つかる。次いで被害が出た際、式の発動は確認されなかったため、〈同盟〉は魔術が使われた可能性も含めて捜査を始める。
昏睡者に目立った健康被害が見られないので、警邏隊は実行者を捕らえることに消極的。更に実行者が式士の場合の処遇は〈同盟〉の管轄となり、魔術士の場合は〈同盟〉が抱き込もうという魂胆が透けている上に魔術士が噛んでくる懸念があるので、なおさら捜査協力に乗り気ではない。close


ほぼセリフのみで書いたストックをそのまま載せたり、書き足して載せたりする。
あと過去にツイや創作メモに投げてた各キャラのどうでもいい話とか。

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